「ちょっといい?」
とそのとき、急にあたしの隣にやってきた綾香がお玉を鍋に入れた。
何をしているんだろう……?
視線を綾香の手元に向ける。
すると、綾香はあたしの視線に気づいてニッと笑った。
「パスタを茹でるとき、誰か塩って入れた?あたし入れ忘れちゃったかもしれなくて。だから、塩が入ってるのか味見しようと思って」
綾香はお玉を鍋から持ち上げる。
並々と入れたゆで汁から湯気が立ち上る。
味見するにしてはあまりにも多い量。
――まさか!!
とっさに身構えたその瞬間、
「あたしに刃向かおうとした罰よ」
綾香はゆで汁をあたしの胸元に向かって勢いよくかけた。
「――熱い!!」
じわっと広がる痛みに思わずそう叫ぶ。
胸に張り付くエプロンとYシャツを肌から必死に離し、胸を確認する。
ゆで汁がかかった部分は真っ赤になってしまっていた。
「――どうしたの!?逢沢さん、けがはない!?」
騒ぎに気付いた先生があたしに駆け寄った。
騒がしくなる調理室内。みんなの視線が一斉にこちらに注がれる。
「やけどを……」
「どうして?胸元?何があったの!?」
「……っ」
思わず痛みに顔を歪める。
綾香とマミは目を見合わせてほくそ笑んでいるように見えた。
「どれ?先生にやけどを見せて?すぐに冷やした方がいいわ!!」
先生は動揺し、慌てていた。
エプロンを取りYシャツのボタンに手をかけたときハッとした。
どうして綾香があたしの胸元を狙ったのかに気付いたとき、鳥肌が立った。
綾香はやけどを先生が見ることを予想していた。
周りにはクラスメイト達。
やけどの跡を見せるということは、みんなの前で下着をさらすということ。
いくら同性でも見られたくない。
そんなあたしの羞恥心を綾香は利用していた。



