柴村さんのことは1年の時からなんとなく知っていた。

目立つ存在ではなかったけれど、目を引く存在だった。

いつも下を向き、表情の読み取れない何を考えているのかよくわからないタイプの子。

誰かと一緒にいるところを見たこともなく、いつも隅のほうで一人でポツンとしていた。

そんな柴村さんとは一度だけ言葉を交わしたことがある。

トイレですれ違いざま、タオルを落としたあたしに柴村さんが声をかけてきた。


『あっ……。落としましたよ』

その声に振り返ると、柴村さんがあたしにタオルを差し出した。

『ありがとう』

タオルを受け取りながらお礼を言うと、柴村さんの口元がほんの少しだけ緩んだ気がした。

彼女は悪い人ではない。

きっと内気で不器用なだけ。

自分から声をかけることができないから友達ができないのかもしれない。

彼女のことをもっと知りたい。

あたしは確かにあの日そう思った。