「ありがとう」

小銭を受け取り財布に戻すと、あたしは重たい体をひきずるように立ち上がった。

「あ、逢沢さん……」

「うん?」

「先生……何か言ってましたか……?」

柴村さんは恐る恐る尋ねた。


【先生に全部話す。あたしがされたことも、柴村さんがされたことも。いいよね?】

トイレの中で柴村さんに送ったメッセージを思い出す。

「ごめんね……、柴村さん。先生には期待できなそう」

もしかしたらイジメられなくなるかもしれない。

柴村さんだってきっとそんな期待を心のどこかでは抱いてしまっただろう。

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「謝らないで下さい……。悪いのは……沢木さん達と……先生なんですから」

悪いのは綾香たちと、先生?


「えっ……?どういうこと?」

「逢沢さんがトイレに行った後、授業のために教室に入ってきた若菜先生……床が濡れているのに気付いたんです。それで、事情を沢木さん達に聞いていて……」

「それで?」

「友達同士でふざけてしたことなら仕方がないわね、って言ってました。友達同士なら少しのいざこざがあってもおかしくはないからって。だから沢木さん達は友達っていう言葉を利用してさっきも逢沢さんのお財布を……」

柴村さんが困ったようにうつむく。