「ねえお姉さん」

変な事を考えていたせいか、少し驚いた。
彼は登場シーンからやたら脅かしてくる。
私をびっくりさせる才能があるのだろうか。

「お姉さん、この辺の人?」

その質問に、私は言葉を詰まらせた。
全然違う。
遠くから来た。
県もまたいで、ここまで来た。

「……旅を、しに来た」

その一言で私は現実を思い出した。
言わばこれは、現実逃避だった。

そもそもの始まりは15年も一緒だった、妹が死んでしまった事から始まった。
名前はマロ。
マシュマロみたいな色をしていた。
そう、真っ白だった。
そんな、犬である。

私が5歳の時ペットショップで見かけた。
ガラスの向こうで彼女は泣いたのだ。
涙を流したのだ。
飼わなければいけないと、小さいながらに思った。

小さい頃から今までの人生の大半を一緒に生きてきて、もう本当の妹みたいだった。
どんなに辛くても、寂しくても、悲しくても、マロが居れば生きていけた。




でもある日ふと思った。


彼女もいつかは居なくなってしまう。
永遠の眠りについてしまう。

そうなったら私は、生きていけないのではないか。

私はきっと駅のホームで飛び降りようとしたり、手首を切って水に浸したり、海に行ってどこまでもどこまでも歩いていったり。

彼女の体調が悪くなってきて、病院へ連れてって心臓病だと知って、もう長くないと知ってから、気が気じゃなかった。
とてもじゃないけど仕事に行ける気がしなかった。
片時も離れることが出来なかった。

そしてある日。彼女は倒れた。歩けなくなった。すぐ病院へ連れていった。
もって1週間。医者は言った。
でも彼女は

マロは





その日に死んだ。