(まだ、ガキじゃねえか)


 まだあどけなさの残る顔立ち。

 大きな目が不安そうに揺れながら男を見ている。

 よく見れば、白い膝から一筋の血が流れている。

 ああ、これは完全に訳ありだ。
 自分の直感は正しい。

 何も見なかったことにして帰ろう。
 心の中でそう思っているのに、男の足はひとりでに少女に向かっていた。


「おい」


 やめろと言う心の声を無視して、矢上の口が勝手に開いた。

 少女の肩が、怯えたようにびくりと跳ねた。


「あんた、怪我してるじゃねぇか。ちょっと待ってろ。絆創膏ぐらいなら店にあるから持ってきてやるよ」

「あ……」


 何か言いたそうな少女を無視して、矢上は今しがた出てきたばかり店の中に消えた。

 ほどなくして救急箱とペットボトルのミネラルウォーターを持って現れ、少女の前に立った。

 座り込んだ少女からは、矢上が大きく威圧的に見えるのか、肩を強張らせて小さく震えている。


「取って食ったりしねぇよ。俺はあそこの店の者で、あんたには何の興味ねえ。ただ、ここにずっといられちゃあ邪魔だ。膝の手当てをしてやるから、終ったら失せな」


 少女の返事も聞かず矢上は手慣れた調子で手当てを始めた。ミネラルウォーターで傷を洗い、新品のタオルで水滴を拭った。そのうえで絆創膏を貼る。


「終わりだ」

「あり……がと、う」


 か細い声が小さく礼を言う。

 それを聞いた男は、一瞬驚いたような顔をし、ゆっくりと笑った。