「宗司さんの、バカバカバカー!」
「何とでも言え」

 にやりと笑うと、矢上は彼女をぎゅっと抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
 かすかに花の匂いがするのは、彼女がもうすでにシャワーを浴びてしまっているからだ。
 彼はひとり、夜の残滓の中に取り残されてしまったような気がして、柔らかい首筋をきつく吸い、赤い痣をつけた。
 ちくりとした痛みに、輝夜がぴくりと体をこわばらせたのが分かった。
 唇を離し、くっきり残った痕を確かめて満足げに笑う。

「宗司さん、もう朝だよ」

「分かってる」

「分かってないってば! もう起きよう?」

「やだ」

 起床を促す輝夜と、子どものように拗ねる矢上の間で押し問答が続く。

「もー! 宗司さんってばっ!!」

 堪忍袋の緒を切らせたらしい輝夜が、どうにかこうにか矢上の腕から逃れてベッドサイドに立った。
 一生懸命暴れたせいか、恥ずかしさのせいか、頬は林檎のように赤く、息も上がっていた。
 吊り上がった眉が、怒りを表している。
 が、ベッドから見上げる矢上にとっては、その一つ一つが愛おしくてたまらない。
 鋭い目を甘く細めて、眺めている。

「こうなったら実力行使にでるまで!」

「ほう。どうするって言うんだ?」

 輝夜の口から物騒な言葉が飛び出しても、矢上は可愛らしくてたまらないというように目を細めている。