「私、明日、父の国へ経つの。だから、本当に今日が最後なの。矢上さん、今までありがとう。信じてくれなくて良いけど、本当に本当に好きだったんだよ? さっきのキスだって、ちょっと怖かったけど、それよりずっとずっと嬉しかった」

「輝夜……」


 矢上を振り返った顔は何かを決意したように見えた。

 男は何も言えず、ただ彼女の顔を眺める。

 噴水を照らすライトに照らされた彼女の顔は、不思議な色に揺れている。


「本当は今日であなたのことをすっぱり諦めるつもりだったの。でも、やっぱり無理みたい。なので、一つお願いがあります!」

「……何だ?」

「一年間だけ待ってください。一年経ったら私、良い女になって戻ってくるから。もう逃げたりしない。あなたに相応しい女になって帰って来るから、だから……貴方の一年を私に預けてください」


 輝夜は言い切ったとばかりに肩を上下させながら荒い息を繰り返す。そんな彼女を長いこと見つめていたが、矢上はとうとう口を開いた。


「俺はオッサンなんで、そんなに待ってらんねぇよ。俺のことなんて忘れろ。お前の周りにはもっと若くて、もっと金持ちで、もっと良い男が大勢いるだろう」

「矢上さん以上に良い男なんているわけないじゃない! じゃあいいよ。待たなくて良い。一年後、貴方に好きな人が出来てたらきっぱり諦める。でも、フリーだったり、私のことを忘れてた時には──」


 輝夜は目を強く輝かせて、男を見上げた。


「今度こそ私を好きになって貰うから! 嫌でも惚れちゃうような、そんな良い女になって矢上さんのお店に押しかけるから覚悟しておいてね」


 と、挑戦状を叩きつけた。