デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

思わず目線を泳がせる桜の肩を両手でつかんだ。

「誰かに泣かされたのか?」

心配そうに、ブラウンの瞳が揺れる。

「いえ……大丈夫です」

小さく笑ってうつむいた。

「……まあいいや、せっかく時間が出来たんだ。ゆっくり話そうぜ」

無理に聞き出すことはせずそう言うと、アラエに向った。

「ああ、案内はもういい。帰りは自分で帰れる」

「かしこまりました」

静かに一礼し、出口へと歩き出す。

渡り廊下に出たとき、ちら、と宮を振り返った。


……驚いた。
あの赤髪の武官の噂は小耳にはさんだことがある。なかなか落とせないと有名な奴だ。

それが、あの黒髪の娘にあんなに執心している。

それと。

泣いていた?……なぜ。

あんなふうに笑う娘が。


“ありがとうございます、アラエさん”


……誰に。

そう思ったところで、ふと我に帰った。

(関係ないだろう、私には)

ツイと前を向き、歩き始める。

後ろ髪をひかれるような思いを無視して。