デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

コンコン。

桜の部屋の戸が叩かれた。

しん……としばらく沈黙が横たわる。

中から聞こえるはずの返事がないことに、その藍色の髪を揺らして王は首をかしげた。

そっと、細く戸を開ける。

彼女が深宮に来るまでの時間が惜しくて、直接部屋を訪れたのだ。

ほのかに桜の匂いが届いて、王は目を細めた。

柔らかくて、優しくて、どこか甘い匂い。

トクリ、と心臓が小さく跳ねた。

「桜……?入るぞ」

静かに言いながら、さらに戸を開けた。

部屋の住人は、ソファの上にいた。こちらに顔を向け、仰向けに横たわって眠っている。

(待ちくたびれたのか)

部屋に入り、足音を忍ばせて近づく。

そっと床に座って、寝顔を見つめた。

「すまぬな、遅くなって」

そう小さく言い、その白い頬を指でなぞった。

「ん……」

もそ、と身じろぎする。眠りが深い状態なのか、起きなかった。