デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

まわれ右をしようとする桜。

「あ、お、お待ちください!」

思わず手を伸ばし、グラスをつかんだかと思うと一気に飲み干す。

あわてて喉に流し込んだから、アラエは激しく咳き込んだ。

「わあっ!だ、大丈夫ですか、アラエさん!」

ぎょっとして、桜がトントンとアラエの背中を軽く叩いた。

しばらくして、少しずつ咳が小さくなり、荒い息をつく。


――全く、何でこんな目に。こんな、なんの取り柄もない女に動揺を見せた上になだめられるなんて。

王の客人である以上、もてなしてなるべく取り入らないといけないとはいえ、馬鹿な振る舞いをした。

恥ずかしさに赤くした目元。

この女に関わると、すぐ調子が狂う。冗談じゃない。

伏せた顔の下で、きゅっと唇を結んで嘲笑か哀れみの言葉かを待った。

「……よかった」

静かに桜の声が聞こえた。
予想だにしない言葉に面食らって、思わずアラエはその黒い瞳を見た。

「何だか、初めて本当のアラエさんを見せてもらった気がします」

見開かれた赤銅色の瞳を見返して、ふふ、と控えめに笑った。

「ありがとうございます、アラエさん」

そう言って、ぺこっと頭を下げた。