「そうじゃない。他の女なんか抱きたくないんだ」

いつもの淡々とした彼らしくない言葉に、同僚は驚いた。

「はあ……そうか………。でもお前、その女に会えないんだったら、わざわざ志願してまで王都の任務になんて来なくて良かったじゃねーか」

また少し笑い、ちらりと同僚のはるか後ろに小さく見える王宮の門を見た。

「いいんだ。同じ街にいるというだけで。だから余計に、あの清い娘に後ろめたい真似はしたくない。それに、この任務が終わったら、次の日は休日にしていいと武官長から許可を得てるしな。その日は会えるんだ」

「……お前に、そこまで言わせる女ってどんな女だよ」

そう言って軽く頭を振り、両手を上げる。

「俺のすべてを捧げてもいい。だが、あの娘のすべてを奪いたい。そのくらい愛しい女だ。悪いが、色街へは他のやつを誘って行け。武運を祈る」

ひらひらと手を振り、マントをひるがえして宿への道を歩き始めた。