しばらくして身支度を整え待っていると、静かに戸口が叩かれた。
「はい」
「失礼いたします」
カラカラという音とともに、昨日と変わらない微笑みのアラエが顔を出した。
「桜様、もうじき神宮の使者の謁見が始まりますゆえ、謁見の間の外にてお待ちいたしましょう」
「はい」
二人渡り廊下に出て、公宮の方向へ歩き始める。
少し黙ったまま、少し湿り気の帯びた風を二人で受けながら歩いた。
「桜様」
ふいに、アラエが話しかけた。
「はい?」
「その……昨日は、ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
ぴた、と足を止めて、頭を下げた。
「えっ?………ああ、いやいやそんな……顔をあげてください」
あわてて手を振った。
だがまだ頭を下げたまま、少し黙ったあとでまたアラエは口を開いた。
「……お恥ずかしゅうございます。私の打算が桜様に知られて、あまつさえお気遣いまでいただきました」
ゆっくりと顔を上げ、少し困ったようににこりと笑った。
「ですが……カナンが羨ましいと思ったのは、本当でございます。宮中に在って、衷心から話ができるというのは」
桜は少し首を傾げてサラリと言う。
「じゃ、アラエさんもそうしてください。私すごい鈍いから、言葉の裏を読むのが出来なくて。あと嘘下手らしくて。これはカナンにも言われたんですけどね」
ふふ、と初めて自分を見て笑う桜を、また驚きの眼差しで見返した。
