デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

と。

「桜様」

唐突に、名前を呼ばれた。

「うわっ!」

驚いて小さく飛び上がる。

瞬きしてその声の方を見ると、仕事に戻ったはずのアラエが微笑んで立っていた。

「あ、アラエ…さん」

「驚かせてしまいました。申し訳ございません」

静かに一礼する。

「ど…どうしたんですか、お仕事は……」

「今の私の役目は…我が君と桜様がお会いしたあと、無事に客用の宮までお送りすることですから」

さ、と桜をうながし、先に立って歩き始める。

そよ風を受けながら、アラエが桜に聞いた。

「……カナンとは、十分お話しになられましたか」

「ええ」

「それはようございました。…これで、私もカナンと同じように、桜様とお話できますでしょうか」

にっこりと笑って、桜を振り返った。

「え?どういうことですか?」

「カナンが羨ましゅうございまして。王の客人であるあなた様に、そんなに大切に思って頂いて。……屈託なく話ができるなんて。それに、近侍といえど、深宮にはそう滅多に行けるものではございません」

「…………」

桜は静かにアラエの笑顔を見つめていた。

「桜様、これからは微力ながらカナンの代わりに、どうぞどうぞ、よろしくお願い申し上げます」