デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

カナンは唇を噛んだ。

どうあっても、もう桜を手に入れることはできないと分かった以上、近くにはいられない。
たとえ敬愛する主君でも、他の人間のものになっていくさまを見続けるなんて。

そんなにすぐ、気持ちの整理などできない。

今だって、彼女が自分を訪ねて来てくれただけで。

だがそれを言えば、桜は自分に対して負い目を感じるに違いない。
選んだ人の手を取ることを、きっと躊躇する。

彼女の負担になりたくない。自分にとってのあの女たちのような、忌まわしい過去になりたくない。

幸せになってほしい。誰より好きだから。

顔をそむけたまま、薄く目を閉じた。


――“桜がお前に対して、決して少しも後ろめたく思うことのないよう、悲しむことのないよう、己が才覚の限り、必ず嘘をつき通せ”


小さく、息をついた。

「…分かった、本当の事を言う」

静かに向き直り、少しその口元に微笑みを浮かべた。

「私も、自分の気持ちがわからなくなってたんだ」

「え?」

意外な言葉に、桜は首を傾げた。

「お前と会う前は、他の女なんかとは満足に話なんかできなかった。知ってるだろ」

「うん……」