デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

ドアには一枚づつ表札が貼られていて、誰がどこの部屋なのか、きちんと決められているようだった。

(言葉は話せるようになったけど、こっちの文字は読めないんだよなあ……)

桜が困っていると、アラエが部屋の中で仕事をする近侍達の邪魔にならないようにだろう、そっと小声で桜を導いた。

(こちらです)

列の端の方のドアの前で、アラエは足を止めた。

(私はここでお待ちいたしますので)

にこ、と小さく笑う彼に、桜は首を振った。

(いえ…いいです。大体帰り道は分かりますから。お仕事に戻られてください)

(ですが……)

(どうしても分からなくなったら、カナンとか、適当に人を捕まえて聞きますから。ありがとうございました)

もう桜の意識は、このドアの向こうだ。

彼女なりに、自分を待たせるのは申し訳ないと思っての事なのだろう。
二の句が継げずに、アラエは頭を下げた。

(かしこまりました。では……)

深く一礼し、そっともと来た道を戻っていく。

それを見送ってから、桜は目の前のドアをノックした。