だが、違う。主君のあの言葉は本気だ。

ではなぜあんな事を言ったのか……。

王の客人という立場でありながら、一介の臣下に頭を下げる事をためらわないばかりか、それが普通のようだ。

そして、単なる若輩の近侍に会うためだけに、王にその願いを通してしまう。

また、そっと目の端で桜を見た。

(……全く分からない)



そうしている間に、公宮の裏口に来た。

やっぱり仕事に追われる臣下たちが、たくさん行き交っていた。

ふと、カナンが残りの仕事を片付けることについて、帰りが遅くなるのを心配する桜に言っていた事を思い出した。

“うるさい上司がいないだけ、かえってはかどるぞ”

うるさい上司。

(ここの皆にとってこの場合、王様なのかな)

王の方もそれが分かっていて、だから午前中か午後イチくらいまでには仕事を終わらせて、深宮に引っ込むのかもしれない。

カナンのあのすまし顔を思い出して、ふふ、と少し悲しく笑ったその時、アラエの声が桜の意識を引き戻した。

「桜様、こちらが近侍の仕事部屋がある場所でございます」

顔を上げると、小さいながらもそれぞれがきちんとした個室になっているのだろう、ドアが廊下に沿ってズラリと並んでいた。