桜が姿を見せたとき、驚いたようにアラエは立ち上がった。

「桜様……もう、我が君とのお話は終わられたのですか」

「お願いして、今日だけお休みさせてもらいました。お願いなんですがアラエさん、カナンのところに連れて行っていただけないですか」

その言葉に、ますます驚いたように赤銅色の瞳をぱちくりさせる。

「お……お休み……でございますか……」

主君の言うことは絶対の立場からすると、驚くのも無理はない。

「カナンなら、自分の仕事部屋にいるはずでございますが……」

困惑しているらしいアラエに、頭を下げる。

「お願いします、王様に許可はもらったので、連れて行ってください」

おろおろと足踏みするアラエの足元が見えた。

「おやめください、私めにご客人が頭を下げるなど!ご案内します、ご案内いたしますゆえ!」

あわてて先に立って歩き出した。

その後から歩く桜には見えなかったが、驚きと動揺に、耳まで顔を赤くしていた。

チラ、とわずかに振り返って、桜の少し緊張したような表情を見た。
もう今目の前にいる自分の事など、頭にないかのような。


……カナンに、何と言おうか考えているのだろうか。

その、心から自分の同僚を思う彼女に驚く。
さっき桜に言った社交辞令ではなく、本当に。

(……羨ましい)

宮中の人間の中に生きる彼はそう思った。