デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

美しい顔を能面のようにして、静かに罵倒の言葉をつむぐアスナイ。

普通の人間なら、激怒するか心が修復不可能にまでポッキリいくのだが――

『まあまあ、俺もお前も新米ペーペー武官なんだからよ。知識は実戦の中でつけていけばいいじゃねーか』

ニコッと人懐こい笑みで、相手の毒気を抜いてしまうのだから、シュリも大したものだ。

あきらめたようにハア…とため息をついて、改めてアスナイは足元にうずくまる黒髪の少女を見た。

血色の悪い怯えた顔に、お世辞にも美しいとは言えない太った姿。

肌にはあちこち打撲や擦り傷、特に左腕の裂傷は少し深そうだ。

漆黒の髪が、震える背中に広がっている――

と、彼女の体がふわりと大きな布に覆われた。

『お前、裸じゃねーか。これかぶっとけ』

シュリが自分のマントを桜にかけたのだ。

(え…!)

目を見開いて、桜は赤髪の青年を見る。

『お前が『魔』じゃないことは分かった。俺らはお前を探しに来たんだよ。王命でな』

まだ少し怯えを残す黒い瞳をのぞきこむ。

『さっきは驚かせて悪かったな。もう安心しな。王都まで、バッチリ護ってやる』