デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

少しして、謁見の間の戸が叩かれた。

「我が君、ご使者をお通しいたします」

スッ、と静かな音と共に、いつもの白い衣に緋色の帯を締めた女が、化粧っ気のない無表情な顔を深く下げた。

「王にはご機嫌麗しゅう。本日の神告をお持ちいたしました」

「聞こうか」

「天候におけるもの、並びに人の世への乱れを成すものは、ございませぬ。地下に住まえる一族の動きも、未だ大きなものはなしとのことでございます」

その言葉に、長いまつ毛を伏せて、こめかみに手をやる。


……こちらの準備が整うまで、もう少しだが。

先程、ひそかにここ最近の王都の死者数と行方不明者数を調べさせた。特にいつもと大幅に増えてはいない。
が、桜が街で見かけたように、王都に『魔』が潜り込んでいる。

『魔』はいるが、死者数と行方不明者数は大して変わっていない。ということは、やはり王都に潜伏している『魔』は………。

王都付近の街の『魔』の出没頻度が上がってから、もうじき一月だ。

「……さすがに、そろそろ限度かもしれぬな」

その言葉の真意を分かるものは、ここにはいない。

「さてと……その時には、どうしたものかな」

やはりネックは、王都のこの広さと、人口の多さだ。
そのために全国の武官長に命令を出したが、やはり民への被害は極力抑えなくては。

「……エサをぶら下げるか。奴らが食いつかずにはいられないエサを」

唇の端を持ち上げて、嘲笑った。