デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

あと一歩踏み出せば、彼の姿は戸の外の暗闇へと消えるだろう。

どうしても、そうさせてはいけない気がして、けれどもう駆け寄ってその手を取ることができない桜は、離れた場所から言う。

「カナン。カナンが娼館でしてた事は、カナンが望んでしてた訳じゃないでしょう?人を殺したことは確かに許されないことかもしれない。でも、カナンはずっとこうして、苦しんでるじゃない。ずっと罰を受けてるじゃない」

微動だにしない後ろ姿に、言い募った。

「生きたいと思うのは、幸せになりたいと思うのは、当たり前だよ!」

「………」

「カナンは、きれいだよ。私、私は逃げてばかりだったから、良くわかるの。あきらめて、投げ出して死んだように生きるより、這いつくばってでも、たとえ汚れてしまっても、必死に生きる人のほうが、ずっときれいだよ!」

「やめろ!!」

悲痛な叫び声を上げてカナンは振り向き、桜を睨みつけた。
一瞬、ビクッと身をすくませたが、揺れる黒の瞳はまっすぐ彼を見つめていた。

「……やめないよ。だって、カナンは……カナンだって、私の大事な人に変わりないもの。ずっと」

特別な人ではないけれど、大事な人。

……自分は残酷な事を言っていると思い、胸が潰されるように痛んだ。だけど、嘘は言わないと言った。彼の告白を受け入れた。

これは、その代償だ。