デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

薄く目を閉じ、歯を食いしばっていた口を開いた。


「………ごめんな、さい……」


カナンの目が見開かれたと同時に、また閃光が部屋を白く染めた。


たちまち背後から、無数の白い腕が追いついてきた。

絡みつく。

その金の髪に、頬に、首元に、腰に、自分の身体中に。

“あたし達の、哀れでかわいいカナン……”
“ふふふ……素敵なカナン……”
“くすくす……だめよ……逃げちゃ”

だ  め  よ

あの女達の声が、低い男のそれになった。

狂ったような笑い声が、ケタケタと耳に響いた。

こちらに背を向けて、腰を折って笑い転げる一人の男。

グリン、と顔だけがカナンに向いた。

かつて自分を買い、自分が撲殺した、娼館の主人。

頭と、鼻があった場所からドクドクと血を流しながら、メチャクチャになった顔面を歪めて、飛び出た目がギョロっと彼を射る。


――馬鹿な奴 何て哀れで馬鹿な奴なんだ お前は

――汚れきったお前が 今更人並みの幸せなんぞ 手に入れられると思っていたのか 受け入れられると 本気で思っていたのか

――焦がれろ 焦がれろ 決して手に入れられないものに 生涯焦がれ続けるがいい 自分の影に怯えながら