デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

ゆっくりと、その足が桜の方へと歩いてきた。

「……カナン?」

「………」

静かに目の前に立つ彼を、少し怪訝そうな顔で見上げた。

おもむろに、カナンはランプを床に置いた。
そしてゆっくりと、桜の白い顔へと両手を伸ばす。

「え……?」

両頬をそっとその手が包み、少しだけその緑の瞳が細められて、唇を重ねようと顔を近づけ傾けた。


あの、甘い温かさが欲しい。

胸に渦巻く、どんどん大きくなるこの嫌な感覚を、消してしまいたいから。


「あっ……!」

ビクリ、と桜が体を震わせて、あわてて身をよじって顔をそむけた。
これまでには見られなかった明らかな拒絶に、カナンは目を見開いて、グッと顔を歪める。

手に力を込めて強く体を寄せた。
無理矢理に唇を奪い、舌でそれをこじ開けた。

「んっ……ぁ…」

一瞬その身を強張らせたあと、腕を突っ張って頭を振る。


――“待っている”


頬を染めて、そっと自分の頬に口づけを落とした後の、あの人の愛おしそうな、そしてどこか切なげな微笑み。
暗闇の向こうに小さくなっていくその後ろ姿を思い出して、桜は固く目をつぶった。