デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

はた、と、いつの間にか客用の宮の前に着いた事に気づいた二人。

(もう!サイテーな上に逆ギレまでするなんて!)

赤い頬を膨らませて、さっさと中へ入ろうとすると、クッ、と繋がれた手に体が引き戻された。

「わっ」

振り返ると、同じようにそのきれいな顔を赤く染めた王が、拗ねたような、軽く睨むような眼差しで、桜を見ていた。

「……明日も、深宮に呼ぶからな。拒否なんか、させない」

いつもとは全く違う、ごく普通の青年のような彼に、また心臓がドキリとした。

「……逃げも隠れもしませんよ。私は王様に対してやましいことなんか、ないもん」

チクッと皮肉を言うと、むうっ、とますます口を引き結んだ。

「この……!」

グイ、と手を引っ張り、彼女を腕の中に閉じ込めた。

「ひゃっ」

恥ずかしさに目を瞬かせて、思わず相手の顔を見上げる。

ギュッと腕に力を込められ、自分と王の体を密着させられた。そのせいで、顔が伏せられない。

……しばらくそのまま見つめ合った。

ややあって、少し冷静さを取り戻した王がフッ、と笑った。

「……そういえばそなた、今しがた気になることを言ったな」

「え?」

「『我慢はお互い様』と言ったではないか。『我慢』しているのか?私と同じように」

固まって絶句する桜に、なおも言う。

「『我慢』とは、嫌なことを耐えるという意味だろう。嫌なのか?私と、薄紅女官との事が。……何故?」

「…………」

目を見開いたまま、彼を見つめる。

そんな桜を見て、まだ赤い顔のまま、くすぐったいような、そして少しだけ意地悪な微笑みを浮かべた。

そしてそっと顔を傾け、桜の頬にチュッ、と軽い口づけを落としたあと、体を放した。

「……待っている」

何を、と問われる前に静かに踵を返し、風雨の音が暗い廊下に響く中、深宮に戻っていった。