「え………」
カナンは、深宮の入り口で思わず戸惑いの声を漏らした。
桜が宮の中に入っていってまだそれほど時間は経っていないのだが、一人の中年の女官がやって来て、王からの言いつけを伝えたのだ。
「我が君とご客人は、夕餉までこちらでご一緒されますので、先に公宮に戻って残務をこなすようにとの仰せでございます」
砂のように素っ気なく言って、一礼してさっさとまた奥に歩いていった。
「………」
緑の瞳を伏せて、渡り廊下を一人歩き始める。
ザワザワと相変わらずの強風が、真っ暗な空の雲をすごい速さで押しのけていく。
どしゃ降りの雨の音は相変わらずだったが、渡り廊下に鳴る自分の足音の方が大きく聞こえた。
さっき、明らかに桜は深宮に行くのをためらっていた。なのに、なぜ、王と夕餉まで共にすることになったのだろう。
(わけがわからない。わからないが……)
この天気と同じように、胸の中に嫌な感覚が渦巻いていた。
まだ昼過ぎだというのに、本当に暗い。
本当なら一日で1番好きな時間のはずなのに、今日は憂鬱だ。
こんな気分のときは、嫌でもあの声がよみがえってくる。
夜ごと、生白い腕を自分の体に絡ませてきた、あの女たちの嬌声が。
カナンは、深宮の入り口で思わず戸惑いの声を漏らした。
桜が宮の中に入っていってまだそれほど時間は経っていないのだが、一人の中年の女官がやって来て、王からの言いつけを伝えたのだ。
「我が君とご客人は、夕餉までこちらでご一緒されますので、先に公宮に戻って残務をこなすようにとの仰せでございます」
砂のように素っ気なく言って、一礼してさっさとまた奥に歩いていった。
「………」
緑の瞳を伏せて、渡り廊下を一人歩き始める。
ザワザワと相変わらずの強風が、真っ暗な空の雲をすごい速さで押しのけていく。
どしゃ降りの雨の音は相変わらずだったが、渡り廊下に鳴る自分の足音の方が大きく聞こえた。
さっき、明らかに桜は深宮に行くのをためらっていた。なのに、なぜ、王と夕餉まで共にすることになったのだろう。
(わけがわからない。わからないが……)
この天気と同じように、胸の中に嫌な感覚が渦巻いていた。
まだ昼過ぎだというのに、本当に暗い。
本当なら一日で1番好きな時間のはずなのに、今日は憂鬱だ。
こんな気分のときは、嫌でもあの声がよみがえってくる。
夜ごと、生白い腕を自分の体に絡ませてきた、あの女たちの嬌声が。
