デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

人混みの中から、数人の叫び声が上がった。

素早く二人がそちらへ視線をむけると、人の波がさっと分かれ、ずんぐりとした黒い影が飛び出してこちらの方へ駆けてくる。

「なんだ!?」

「いやっ…裸じゃない!!」

異様な雰囲気が広がってゆく。

「こいつ…『魔』じゃねえのか!?」


誰かが悲鳴のような声で叫んだ。

その一言で、一気にその場の空気が恐怖を帯びる。

「―アスナイ!」

「ああ」

シュリにアスナイは小さく鋭く頷くと、なおも走る足を止めない影の方へ馬を駆る。

大通りの人混みは混乱して右往左往するが、二人の目は影を見落とさず、ついに前と後ろに回り込んだ。