デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

半ば呆気にとられて、桜の後ろ姿を見送った。

すとん、といつものように入り口の脇に腰掛ける。

「…………」

暗い。ランプを持ってくれば良かった。

暗いのは嫌いなのに。あの、忌まわしい過去の夢のようで。

そんな事を、ぼんやり思う。

桜にすぐに解かれた手を見つめた。

あんな事は、初めてだ。笑っていても、恥じらっていても、たとえ言い争いをしたって、彼女は自分の目を見て、気持ちを素直に、正直に言ってくれていた。

昨日までは、そうだったのだ。

桜と一番対等に、屈託なく話せるのは自分だけ。そう確信していたのに。

なぜ、今日は。

ますます暗くなる空と、景色も霞むほどの激しい雨に、雷鳴が近くなってくるようだ。

(きっと、機嫌が悪かったんだ。私がさっき、厳しいことを言ったから。……帰る頃にはきっと、いつもの桜だ)

ザワザワと波立つ得体の知れない不安を抑えて、そう思おうとする。

(たった一度、素っ気ない態度を取られたくらいで、何を動揺している。あいつは単にすねてるんだ。私は間違ったことは言ってない)

すっと、姿勢を正して顔を上げる。

このまま、夕刻まで数時間待つ。桜と、主君との時間が終わるまで。

一日の中で、1番嫌いな時間だ。