デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

カナンがそう言うと、小さくその肩が揺れた。

「………」

「?」

さらに動揺したように、黒い瞳を揺らしてうつむく。

「あっ……の、ね、カナン。私、あの、今日はちょっと、深宮には……行きたくなくて……」

「え?」

「あの……具合が、悪くて……」

「……………」

隠し事だけではない。下手な嘘をつくなと前も言ったのに。

(宮中の中枢を生きる近侍に、嘘がつけると思ってんのか、こいつは)

呆れて、少し厳しい声で桜に言った。

「我が君をあざむく気か。……確かに私はお前が好きだが、近侍でもあるんだぞ。主君をないがしろにしようとするのを、看過できるか」

「………」

「第一、お前がここに置いてもらう条件は、我が君に話をお聞かせすることだろう。それを勝手に反故にするな。何を悩んでいるのか知らんが、それと己の役目は関係ないだろ」

カナンの正論に、うなずくしかない桜は立ち上がった。

「そうだね。…ごめん」

そして、二人並んで暗い渡り廊下を歩いた。雨は相変わらず激しく、雷鳴が遠くで聞こえる。

黒い瞳を伏せて、なんとなく考えこんでいるような表情の桜を、カナンは横目で見た。

(……何だ、一体)

いつも彼女にするようにそっと、その手を取った。