午後になっても雨は止まないどころか、雷鳴まで轟き始めた。
公宮から、嘘のようにきれいに乾いている渡り廊下に降り立ったカナンは、少し呆れ顔で暗い空を見上げる。
(全く、よく降るな)
帰路の事を考えてうんざりしながら、客用の宮へ早足で歩きだした。一日の中で、2番目に好きな時間だ。
1番好きな時間は、あの黒髪の少女を、深宮から客用の宮まで連れ帰る時。
わずかに唇を微笑みの形にして、なるべく早く着くよう、大股で、早足で歩く。
少しでも早く彼女の部屋に着いたら、その分深宮に送るまでの時間が長く取れるから。
部屋の戸口の前に着いて、ふうっと少し乱れた息をととのえる。静かに戸を叩くと、「はい」と優しい声が中から応えた。
戸を開けたが、いつもならすぐに戸口にいる自分のもとにやってくる彼女は、どこか微妙な顔をしてこちらを見ている。
微笑みを作ろうとして失敗したかのような表情で、黒い瞳をさまよわせていた。
「……?どうした、桜?」
カナンが首をかしげると、ううん…、と首を振る。
(ほんとに、隠し事の下手な奴だ)
危なっかしくて、とても宮中には放り込んでおけない。
だから早く自分を選ばせて、王宮の外、安全な部屋の中で守ってやりたい。
(今度は何を悩んでるんだかな)
ふっと小さく笑って、渡り廊下で聞き出してやろうと思った。
「お召だ、行こう」
