まるで映画の悪役のような人質の取り方をしている桜だが、破片を握った彼女の手は小刻みに震えていた。
平和な日本という国に生まれ育った普通の人間が、そう簡単に人の体を切りつけられる訳はないのだ。
けれど、盾にされている女は生きた心地がしていなかったし、男の方も自分が下手な動きをすると、女が―自分の妻が殺されると本気で思いこんでいた。
というのも、彼らは彼らで、ずっとこの物騒な街に生きてきたため、『自分の身を守るためなら他人を平気で殺す』ということが常識なのだ。
結果として、桜の精いっぱいのハッタリは成功した。
その体勢のまま、男への目線は外さずにゆっくりと出口へ移動する。
そしてついに、自分の体半分が外に出たところで、彼女は思い切り女を室内へと突き飛ばした。
突然解放された女がまた悲鳴をあげたと同時に、身をひるがえして細い通りに飛び出す。
裏路地は暗く、わずかに家の灯りがもれている程度だったが、満天の星空と大きな二つの月明かりで、どうにか足元は見えた。
道なんか分からない。
でも、とにかく逃げなくちゃ。
桜は独り、傷の痛みも振り払うように、めちゃくちゃに走り続けた。
平和な日本という国に生まれ育った普通の人間が、そう簡単に人の体を切りつけられる訳はないのだ。
けれど、盾にされている女は生きた心地がしていなかったし、男の方も自分が下手な動きをすると、女が―自分の妻が殺されると本気で思いこんでいた。
というのも、彼らは彼らで、ずっとこの物騒な街に生きてきたため、『自分の身を守るためなら他人を平気で殺す』ということが常識なのだ。
結果として、桜の精いっぱいのハッタリは成功した。
その体勢のまま、男への目線は外さずにゆっくりと出口へ移動する。
そしてついに、自分の体半分が外に出たところで、彼女は思い切り女を室内へと突き飛ばした。
突然解放された女がまた悲鳴をあげたと同時に、身をひるがえして細い通りに飛び出す。
裏路地は暗く、わずかに家の灯りがもれている程度だったが、満天の星空と大きな二つの月明かりで、どうにか足元は見えた。
道なんか分からない。
でも、とにかく逃げなくちゃ。
桜は独り、傷の痛みも振り払うように、めちゃくちゃに走り続けた。
