今なら、隙をついて逃げられるかもしれない。

薄く目を閉じて、桜は思いだす。

この檻のある小さな広場から、そこのテントの入り口に入る…

そのテントは私がさっきまで閉じ込められていたテントで、そこからこの人たちの生活スペースのテントにつながっている。

そこに多分さっきの女の人がいるはずで、その人をなんとかしたら、すぐ外に出られる。

ふうっ、と息を吐いて、ちらりと中年男の方を見ると、観客のヤジにますます顔を真っ赤にして大声で言い返している。
手で桜の背中を小突いてはいるものの、こちらをまるで見てはいなかった。

―今しかない。大丈夫、きっとうまくいく。

心を決めて、2、3歩静かに男から離れ、最後に一瞬だけ男がこちらを見ていない事を確認して――

桜は走りだした。