グイ!と髪をつかみ上げられる痛みで桜は我に返った。

目線だけ動かして上を見ると、彼女をここまで引っぱってきた張本人の男が、顔を怒りに真っ赤にしている。
激しいブーイングの中で、松明の火の灯りに照らされた、テカテカの安っぽい衣装がなんとも滑稽だ。

前を見ると、ヘロヘロと足取りのおぼつかない獣を、二人のスキンヘッドの男があわてて下げようとしているところだった。

中年太りの男は桜に何事か悪態をつくと、早々に檻の外へと突き飛ばした。

見物料を払ってこんな茶番を見せられた観客たちは、酒のグラスや軽食のゴミを次々に投げ入れている。

商売人の仮面をぬぎすてた中年男も、彼らに怒鳴り返していた。
そうしながらも、さっさとテントに帰ろうと桜を後ろから小突く。


あのスキンヘッドの二人は獣にかかりきりで、この中年男も観客に気をとられてる。

あとは、最初に入ったテントに非力そうな女が一人だけのはず…

痛みと緊張の疲れでぼんやりとしそうな頭を必死に働かせた。