デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

が、びくともしない。

ハァ、と冷たい息が耳にかかり、次の瞬間、ガリっという音とともに、小さく鋭い痛みが耳たぶに走った。

「痛っ!!」

悲鳴をあげる。

ちろちろと、氷のような舌が痛みのあとをなめとった。

「ひっ………」

涙目でガタガタ震える彼女を楽しそうに見ながら、舌が唇に付いた血をぺろりときれいに拭う。

「なかなかの美味………。お前、まだ純潔の乙女か」

また愉快そうに喉の奥で笑い、「さあ、来い」と腕を引っ張られた、その時。


「桜?どこにいる」


聞き慣れた声が、恐怖を破った。

小さな舌打ちと共に冷たい手が離され、『魔』が人混みの中に姿を消すのと、王がこちらを厳しい表情で見つけたのが同時だった。

ドキドキと、まだ心臓が暴れている。

胸に震える手をあて、息が上がっているのを懸命になだめようとした。

完全に、捕食者の目だった。
キトニの街の、あの猛獣の目。いやもっと冷酷で、オモチャを弄ぶような。

ごくり、と生唾を飲み込んだ。