デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

街が始まるまでの少しの距離を、一緒に歩く。

「そなた……どういうつもりだ」

思いがけない不意打ちを食らった王が、不意に足を止めて、フードの下からでもわかるくらいに目元を赤くして桜を見た。

今更ながらに、桜も顔が熱くなってくるが。

「だって、万一でも『王様』なんて呼ぶわけにはいかないでしょう……『あなた』」

「っ!!」

ますますカッとその頬を染める。

そんな彼を、桜はじっと見つめた。

「……せっかくだから、『王』『我が君』以外の呼び方はどうかなって、思ったんです。名前で呼べないなら、せめて」

「…………」

「王様、私はいつもあなたのこと、『王様』って呼びますけど、正直あまり偉そうな人として思ってないんです。お名前を知らなかったから、そう呼んでただけで」

そっと顔を見上げる。

「あまり、上手く言えないけど……私にとって、あなたはあなたなんです。呼び方なんて、別に明日から変えたっていいし、あなたが明日から王様じゃなくなったとしても、立場が変わったんだなって思うだけで」

少し勇気を出して、王の両手を取った。

「例えどんな立場になったって、少なくとも私にとってのあなたは、後にも先にも、あなたただ一人ですよ。『王様』の代わりはきっと探せばいるけど、あなたの代わりはいないもの」

人は誰でも、唯一無二。

桜の世界ではごく当たり前の考えだが、こういう世界ではなかなか伝えるのは難しいな、と思った。