デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

その名前すら誰も知らないまま、そして特に知ろうともしないまま、彼を置いて旅立っていく。

ゆっくりと、『彼自身』は風化していったのだろう。

統治者として経験を積み、長い時を生き、名君と言われていくに連れて。

『王』として完璧に近づけば近づくほど、『彼自身』は消えていったのだ。

桜はやっと、どうして彼が自分に接する時、些細な事で不安定になるのか、人が変わったように自信なさげになるのか、分かった気がした。

『王』ではない自分で、勝負しないといけないからだ。

桜の事を好きになった事だって、ある意味奇跡のようなものかもしれない。まだ彼自身の心が残っていたということだから。

何だかたまらなくなる。

自分だったら、気が狂ってしまうくらいの孤独かも知れない。

揺れが止まり、馬車が王宮の門に着いた。

「ありがとうございます」

お礼を言って、二人は降りた。

そっと王を見上げて、きゅっとその手を握る。

驚いた顔をして王が桜を見た。

少し頬を染めて、けれどもじっとその紫の目を見つめた。