何とか馬車に乗り込む。
「王宮の門まで参れ」
「?」
その口調に不思議そうに眉根を寄せて振り返る御者と王の前にざざっと割り込んで、
「すみません、王宮の門までお願いします!!」
フードの下で青くなりながら言い直した。
ガラ、と動き出した馬車の揺れを感じ、
(ああ……動き出しちゃった…………)
冷や汗を流す桜と、心底楽しそうに紫の瞳を細め、見慣れているはずの王宮内を眺める王。
二人を乗せて、風を受けながら車は加速する。
(街中で『王様』って呼ぶわけにもいかないよね……)
ふと、桜はある事に気づき、小声で尋ねた。
「王様……、王様の名前はなんですか?」
そう、皆『王』や『我が君』と呼ぶから、桜も今まで不思議に思ったことはなかった。
彼自身の名前。
すると、王は二、三度まばたきして桜を見つめ、少し笑ってその目を伏せた。
「……名は、ない。というか、自分でも忘れてしまった」
「えっ……」
「私が即位する前は当然あったのだろうが、もう分からない。何年も、何百年も、私の名を呼ぶ人間はいなかったからな。父や母の顔も、もう覚えていない。私自身のことは何も」
「…………」
彼は『王』なのだ。それ以外ではない。
彼自身の人格や生い立ちや感情など、この世界の誰も必要としていない。
「王宮の門まで参れ」
「?」
その口調に不思議そうに眉根を寄せて振り返る御者と王の前にざざっと割り込んで、
「すみません、王宮の門までお願いします!!」
フードの下で青くなりながら言い直した。
ガラ、と動き出した馬車の揺れを感じ、
(ああ……動き出しちゃった…………)
冷や汗を流す桜と、心底楽しそうに紫の瞳を細め、見慣れているはずの王宮内を眺める王。
二人を乗せて、風を受けながら車は加速する。
(街中で『王様』って呼ぶわけにもいかないよね……)
ふと、桜はある事に気づき、小声で尋ねた。
「王様……、王様の名前はなんですか?」
そう、皆『王』や『我が君』と呼ぶから、桜も今まで不思議に思ったことはなかった。
彼自身の名前。
すると、王は二、三度まばたきして桜を見つめ、少し笑ってその目を伏せた。
「……名は、ない。というか、自分でも忘れてしまった」
「えっ……」
「私が即位する前は当然あったのだろうが、もう分からない。何年も、何百年も、私の名を呼ぶ人間はいなかったからな。父や母の顔も、もう覚えていない。私自身のことは何も」
「…………」
彼は『王』なのだ。それ以外ではない。
彼自身の人格や生い立ちや感情など、この世界の誰も必要としていない。
