デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「っ!!」

大きな前足にあっという間に肩を押され、地面に投げだされる。

わああっと、見物人の歓声が大きくなった。

桜を押し倒した獣は、それに応えるように一度大きく咆哮すると、彼女の喉もとを目がけて大きく口を開いた。

―今!!

その瞬間、桜は無我夢中で、棒を握っていた左手ごと思い切り敵の口へ突っ込んだ。


グギャア!?


思いがけない反撃と喉への痛みに、獣がのけぞる。思わず獲物を抑えつけていた前足から力が抜けて、一瞬桜の上半身が自由になった。

その隙を逃さず起き上がると、桜はすばやく相手のヒゲをつかんで、そして―


ブチリ。


小さな槍の穂先だったナイフで、数本のそれを切った。