「王様、こんにちは」

帳をそっと払って入ってくる桜に、王はいつものように優しく微笑んだ。

近寄ると心配そうな顔をして、左頬にそっと触れる。

「痛んだり、アザになってないか」

「あ……いえ、全然」

桜が首を振ると、少し安心したように、「座ろう」とうながした。

昨日彼女が喜んだから、髪をなでてやろうと手を伸ばす。

と、花のバレッタに気づいた。

(……アスナイか)

すぐさま理解する。

カナンのネックレスも、相変わらず毎日桜の胸に下げられていて、まるでゆっくりと彼女が侵食されていくような感覚に陥る。


――まだほころび始めたばかりだというのに、虫が柔らかな蕾を食い荒らそうとしている。


ぐぐ、と桜の髪を留めているバレッタを握った。

「痛…お、王様?」

わずかに髪が引っ張られたのか、桜が小さく顔をしかめた。

はっと我に返り、その手を離し、こくん、と喉をならす。

(………危なかった)

また、彼女に酷いことをしてしまうところだったかも知れない。