翌日の午後。

「お召だ。行くぞ、桜」

カナンが部屋に顔を出した。

「あ、うん」

うなずいて、立ち上がる。渡り廊下に出ると、夏の暑さがまとわりついた。

王が以前言った通り、それぞれの宮の中は涼しく保たれているのだが、外に出ると日中は日に日に暑くなるようだ。

「暑くなってきたね」

「そうだな。しばらくはこんな感じだ。鬱陶しいけどな」

はあ……デブスには辛い季節になったなあと思いながら、カナンと渡り廊下を歩いた。

せめて余計に汗をかかないように、桜は歩きながら髪を一つにし、それをねじって後頭部でアスナイからもらったバレッタで留める。

カナンの緑の瞳が、ちらりとそれを見た。

「お前、それ……」

「ん?」

「いや、そんなの持ってたか?」

薄ピンクの、小さな花がこんもりとついた髪飾り。桜の雰囲気によく合っている。

ああ、と微笑んで、そっとバレッタに触れる。

「昨日、アスナイさんにもらったの。わざわざ買ってくれて」

「あの武官が?」

驚きと少しの苛立ちで、カナンは顔をしかめた。

「うん、見立ててくれたんだよ。意外だよね、こんなかわいいの」

少しおかしそうに笑う。

「………」

にわかに信じがたい。
昨夜の、あの態度。聞きしに勝る陰険野郎だと思った。