デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

(あの、金髪小僧…………)

馬車が走り去った方向を、燃える紺色の瞳が睨みつけていた。

(仕返しと、牽制のつもりか。『ネズミ』の癖に、上等だ)

マントをひるがえし、愛馬の元に戻った。

手綱を取って、歩き出す。

しかし、今まで宮中の文官で、あんな烈しい目をする人間を見たことがない。

まだ若いということを差し引いても。

(そして、ムカつくことに愚かじゃない。頭の回転が早く、胆力もある)

眉をひそめた。

(意味がわからん。どう考えても、あいつの本来の属性は文官ではなくて―――)

ふと、さっき桜が『文官から武官になることはあるんですか』と聞いた事を思い出した。

(……なるほどな。あの金髪小僧の事か)

また、王宮の方を振り返る。

(桜……俺との時間にあいつの事を思って、それを俺に聞くとは、いい度胸じゃないか)

胸にある、彼女への清廉な愛おしさとは裏腹に、また嗜虐心が顔を出す。

(次会ったら、どうしてやろうか)

クスリと唇だけで笑って、馬に乗った。