さっきまでとはガラッと変わったアスナイの冷たさに、びっくりして桜が振り向く。
「はい、本日の近侍としての仕事は終わってございます。そうでなくとも、桜様は我が君の大切なご客人」
全く怯まずに、美しく微笑むカナン。
が、細めた目をゆっくりと開き、その口角だけを上げてアスナイを見た。
「万一でも、『不逞の輩』が桜様に『傷』をつけるなど、あってはならぬこと。それゆえ、お迎えに上がりました」
ぴくり、と目の下を震わせ、不愉快そうにその紺色の瞳を細める。
「……俺は武官だ。外出先でのそのようなご心配は無用に願いましょう。むしろ宮中にこそ、客人にその食指を動かす慮外者がいるのではないですかな」
「おや、これは心外。我が君がおわします場所を、まるで魑魅魍魎の巣窟のようにおっしゃるとは。客人はこの世で一番安全な場所においでです。それを疑うとは。武官殿には、我が君の威に、何かお含みでもあられるのですか」
「いいや、我が君の威は我々臣下の疑うところではない。…が、恐れ多くもその御目を盗んで、我欲を満たそうとする『ネズミ』がいることは王宮外に届いております。…是非に、そんな害獣は駆逐して欲しいものですね」
互いに一歩も引かない。桜はただならぬ雰囲気に、はらはらして髪を弄んでいた。
ふっ、とカナンが強い目線だけをアスナイにぶつけ、浅く笑った。
「宮中に在って、桜様を遇する者としてよくよく肝に銘じましょう。……武官殿のご高説を拝するお時間を頂き、感謝申し上げます。では、後は私が客人をお部屋までご案内致します故。道中、どうぞお気をつけて」
そう言って一礼すると、桜の手を取り、そっと背中にもう片手を添えて馬車へと乗り込ませた。
「あ…アスナイさん、ありがとうございました!…気をつけて…」
あわててアスナイを振り返り、手を振る桜に、
「さーて、お前の部屋に灯を入れなくてはな。その後で茶でも一杯もらおうか。いつものように」
にっこりと微笑んで、言い放った。
「はい、本日の近侍としての仕事は終わってございます。そうでなくとも、桜様は我が君の大切なご客人」
全く怯まずに、美しく微笑むカナン。
が、細めた目をゆっくりと開き、その口角だけを上げてアスナイを見た。
「万一でも、『不逞の輩』が桜様に『傷』をつけるなど、あってはならぬこと。それゆえ、お迎えに上がりました」
ぴくり、と目の下を震わせ、不愉快そうにその紺色の瞳を細める。
「……俺は武官だ。外出先でのそのようなご心配は無用に願いましょう。むしろ宮中にこそ、客人にその食指を動かす慮外者がいるのではないですかな」
「おや、これは心外。我が君がおわします場所を、まるで魑魅魍魎の巣窟のようにおっしゃるとは。客人はこの世で一番安全な場所においでです。それを疑うとは。武官殿には、我が君の威に、何かお含みでもあられるのですか」
「いいや、我が君の威は我々臣下の疑うところではない。…が、恐れ多くもその御目を盗んで、我欲を満たそうとする『ネズミ』がいることは王宮外に届いております。…是非に、そんな害獣は駆逐して欲しいものですね」
互いに一歩も引かない。桜はただならぬ雰囲気に、はらはらして髪を弄んでいた。
ふっ、とカナンが強い目線だけをアスナイにぶつけ、浅く笑った。
「宮中に在って、桜様を遇する者としてよくよく肝に銘じましょう。……武官殿のご高説を拝するお時間を頂き、感謝申し上げます。では、後は私が客人をお部屋までご案内致します故。道中、どうぞお気をつけて」
そう言って一礼すると、桜の手を取り、そっと背中にもう片手を添えて馬車へと乗り込ませた。
「あ…アスナイさん、ありがとうございました!…気をつけて…」
あわててアスナイを振り返り、手を振る桜に、
「さーて、お前の部屋に灯を入れなくてはな。その後で茶でも一杯もらおうか。いつものように」
にっこりと微笑んで、言い放った。
