デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

アスナイも、シュリと同じように王宮の門まで桜を送ってきた。

城壁を貫く門の中はかがり火が焚いてはあるが、夜ということもあってやっぱりかなり不気味だ。
だからここまで送ってきてくれるのは、桜としては正直ありがたかった。

「アスナイさん、明日、気をつけて帰ってくださいね」

「ああ」

そんな当たり障りのないやり取りをしながら、やがて王宮内の出口についた。

「馬車を呼ぼう。お前が乗るまで一緒に……」

そう言いながら適当な兵士を捕まえようとしたアスナイが、言葉を止めた。

すでに、出口の前に一台の馬車が停まっていた。

二人に気づいたのか、中から人影が灯りを持って降りてきた。

サラッと揺れる、夜目にも明るい肩上の金髪。

「カナン!」

桜が驚いて声を上げた。

「ど…どしたの、こんなところまで」

緑の目で桜を一瞬見て、わずかに微笑む。

「…………」

アスナイが腰に片手を当ててスイと顎を上げ、上から冷たい視線を彼に注ぐ。

「…これはこれは、驚きました。俺の記憶が確かなら、近侍は門ではなく、我が君の側に侍っているものではなかったですか」

石のような声音で、カナンに言った。