デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

昼の店はそろそろ店じまいを始める時間だが、それでもまだ賑わいを残していた。

「アスナイさん、また本屋さんとか?」

「いや、それはもう十分だ。昼に買い込んだからな」

微笑んで首を振る。

「ただ、こうやってお前と街を歩いてみたかったんだ。ごく普通の夫婦のように」

柄にもない事を言ったからか、少し目もとが染まっている。

ふと、その目が一軒の店に止まった。

馬を軒先に繋いで、桜の手を取って中に入る。

「いらっしゃいませ!今日はもうすぐ店じまいですから、オマケしますよ」

ふくふくとした中年の女性が笑顔でやってきた。

小物屋だ。アクセサリーやショール、マントの留金部分などが、ところ狭しと並べられていた。

(わあ…すごい)

目をぱちくりさせながら、店内を見回した。

髪紐がたくさん並べられているのを見て、あ、とアスナイを見た。

(髪紐、渡せるのは次のお休みだな……)

予定がわかっていれば、後で聞こう。それまでにシディさんに合格点をもらえるくらいのやつ、作らなきゃ。

ふん、と小さく気合を入れる桜と背中合わせのようにして、アスナイはぎっしり並べられた商品に目線を流していた。