デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

強い血の匂いに、ますます食欲と狩猟本能が刺激されたのか、さらに目をギラつかせながら獣がこちらへ向き直った。

ゆらり、尻尾が揺れて、じれったそうにヒゲが震えた。

ハアア、と大きな二本の牙の間から、熱い息がもれたのを見た時、桜にある考えがうかんだ。


―そうだ。もしかしたら。

成功すれば、多分この敵を闘えなくできるはず。でも、もし失敗したら…その瞬間、私は死ぬ。

ごくり、と喉をならして、桜はゆっくりと左腕をかばっていた右手をほどいた。


怖い。怖くてたまらない。

かなり、分の悪い賭け。でも。

最期くらい、自分を愛するって決めたの。それなら、信じるしかない。逃げずに、自分自身に、賭けるしかない!

ぐっ、と唇をかみしめて、桜はまた獣の目を見た。
そのまま油断しないように、左手に握ったままの小さな槍の穂先を、足元に持っていく。

そして、刃の根元に足を乗せると、バキッと折った。