デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

いい考えが思いつかないまま、獣と桜はゆっくりと檻の中を睨みあいながら移動する。


…と、背中にひやりと冷たい物がぶつかった。

「!?」

ビクッとして思わず振り向くと、檻の柵だった。
いつの間にか後がなくなっていたのだ。

「しまっ…!!」

ハッとして目線を前に戻すと、猛獣の大きな鋭い爪が、桜の眼前にせまっていた。

「きゃあああっ!!」

思わず顔を腕でかばい、とっさに身をかわす。しかし、わずかに遅かった。

バッ!!

という音がして、鮮血が舞う。

「うぅ!!」

激痛に顔を歪めた。
顔をかばった左の二の腕を、爪がざっくりと切り裂いていた。

右手でそこをかばいながら、なんとかその場から離れる。みるみるうちに血は肘を伝い、指先から地面へしたたった。

焼けつくような痛みに、めまいがする。汗がふきでて、彼女は肩で息をした。