デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「もう、心臓が一瞬止まったよ!カナンが『遅刻だ、我が君がお怒りだぞ』なんて嘘つくから!」

渡り廊下を歩きながらの桜の抗議に、カナンはすまし顔だ。

「こんなくだらない噓に引っかかる方がバカなんだ。しっかり時間管理さえしておけばいいだろ」

「もう!どうせバカですよ」

むうっとふくれる桜にクスッと笑う。

(武官と街で楽しんだバツだ。ざまみろ)

心の中で小さく舌を出し、ぎゅっとその手を握り直した。

「そ…それと、カナン、そろそろ、手……恥ずかしい…」

「別にいいだろ、減るもんじゃなし」

さらっと小さな訴えを退けた。

「ああそうだ、それから」

素早く桜のケープに手を伸ばし、パチンと留金を外してさっと取り上げた。

「わっ、ちょっと!」

真っ赤になってジタバタと取り返そうとするが、カナンの方が頭一つ半くらい背が高い。届くはずがなかった。

「…そっちの方がいい」

ワンピース姿の桜を見て言った。

素直に。もう少し余裕を持とうと思った昨夜。
もう、桜とあんな喧嘩はしたくなかったから。

内心恥ずかしくて、引かれたり拒絶されたらと恐ろしかったが、皮肉や嫌味で予防線を張らずに、少し勇気を出そうと思った。