デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「まあな。あんな親父はどうなろうと知った事じゃないが、医学自体は好きだ」

「アスナイさんのお父さん、お医者さんだったんですか」

目をぱちくりさせる桜に、苦笑いしてうなずいた。

「ああ、そうだ。病床にあった俺の母とは別の女に子供を産ませ、母が死んでから幾日も経たないうちに家に連れてきて、俺に仲良くしろと抜かした最低野郎だ。腕だけはよかったがな」

パラパラと本をめくっては、棚に戻す。

「跡を継げって、言われませんでした?」

桜の問いに、短く冷笑した。

「言われたさ。そりゃしつこくな。ま、成人してからさっさと飛び出してきたがな。別に構わんさ。またあの女なり、もしくは別の女に跡継ぎを産ませてるんじゃないのか」

「……………」

トン、と本を元に戻し、

「つまらん話をした。二階に行ってみよう。古書の量も大したものだぞ」

桜の手を握った。
階段を上りながら、桜はそっとその手を握り返した。

少し驚いて振り向くアスナイに、笑って口を開く。

「アスナイさん、じゃあ、とびきり幸せにならないといけないですね。きっと、お母さんの自慢の息子だもの。お父さんよりずーっと幸せになって、お母さんの分まで見返してあげなきゃ」

「………」

わずかに瞳を揺らして、黙ってまた階段を上る。

うわー、すごい、蔵みたい!と見回す桜を、目だけを細めて見た。


……欲しい。

桜が欲しい。

きっと、後にも先にも、こんなに心の底から欲しい女は、この娘以外にはありえまい。