デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「…………」

一度薄く目を閉じて、そっと戸口から離れた。出入り口の方へ足を向けて、歩き出す。

その時、カタ、と背後で小さな音がした。

振り向くと、桜が少し頬を赤くして、おずおずと開かれた戸口の隙間からこちらを見ていた。

「桜」

カナンが目を丸くすると、「あの………」と言いよどんで、小さく提案した。

「カナン、お茶飲んでいかない?」

ぱちぱちとまばたきした後に、彼もまた少し頬を染めて、うなずいた。

桜がホッとした顔をして、カラカラと戸口を開ける。

すぐに二つのグラスに茶を注いで持ってきた。

並んで座ったとき、フッと酒の匂いがカナンに届いた。

「……酒、飲んだのか」

「軽いのを、一杯だけね。多分それ以上飲んだら私、フラフラになりそう」

少し笑って、二人はグラスに口をつけた。

「…ねえ、カナン」

「ん」

「私カナンと話すの、楽しいよ。同い年だし、変に緊張もしないし。でも、カナンはお仕事あるし、あんまり引き止めたらいけないと思って」

「………」

「でも、もし迷惑じゃなかったら、もう少し、お茶に誘ってもいい?」

揺れる黒の瞳にうなずく。

「毎日でも……いい」

その返事を聞いて、にこっと笑ってまた一口茶を飲む桜。

その時ふわっと空気が動き、彼女のものではない誰かの残り香が鼻に来た。

苦い思いを、黙ってカナンは飲み込んだ。