デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「あっ……」

揺れる黒い瞳がシュリの姿をとらえ、ようやく体に血が巡りだしたかのように緊張が解けた。

背後の冷たい気配は、もうない。

恐る恐る振り返ったが、店の壁があるだけだった。

「どうした?顔色がわるいぞ」

シュリが馬の手綱を持ちながら聞いたが、桜は無理やり笑顔を作って首を振った。

「大丈夫です。…ちょっと、暑くて」

心配をかけたくない一心で、パタパタと顔をあおいでみせた。

「…そうか?」

「ええ!」

眉をひそめるシュリに、元気に返事をする。

正直、一刻も早くここから離れたかった。

これが王やアスナイなら絶対に騙されなかっただろうが、基本的に素直な彼は一応納得してうなずいた。

桜を馬に乗せ、自分もまたがる。

「よし、じゃ、行こう」

再び大通りに出て、速歩でスルスルと器用に人の中を縫って進んで行く。

速度は落ちず、かと言って人の交通の妨げになるわけでもない。
素人目にも、愛馬との信頼関係、シュリの馬術の高度さがわかる動きだった。

「ほんとにすごいですね、シュリさん…こんなに馬に乗るのが上手なんて」