「…さすがは武官様。下々の事までよくご存じでいらっしゃいます」
拾いあげた金貨を懐へしまうと、さらに話しだした。
「騒ぎがあったのは、南区のようでございます。河の、すぐ近くの場所だとか。全く妙な格好をしていて、見た目は『魔』そのものだったものですから、街の男たちが殺そうとしたらしいんですが」
店主は一旦そこで言葉を切り、二つの客用グラスに冷茶を注いだ。
「何でも寸前で、『こいつはよそで仕入れた俺の商品だ』と主張する男がかっさらっていったらしいんですな」
二人に茶をすすめ、すっかり日の落ちた窓のカーテンをひく。
「その男はどこに?」
シュリが茶を飲みながら店主に聞くと、店主の笑顔のまま、すこし困ったように首をかしげた。
「それが、その後は分からないのです。殺さずに厄介払いできるということで、男たちも深く追及しなかったようで。ただ裏通りをそのまま引きずって行かれたと」
