「何だ何だ、美味い店があるのか」
店主の言った「店」の言葉の意味が分からず、食いつくシュリの顔をずいっと押しのけて、アスナイが前に出た。
「主人。それもいいが、別に教えてもらいたいことがある。一昨日から今日まで、何かこの街で変わったことはなかったか」
アスナイの言葉に、店主が笑みをたたえたまま、首をかしげる。
「…はて。この街も広うございますからねえ。ご存じかとは思いますが、この街の内情は美しく安全な王都とは少々違いますので」
すうっと、細めていた目をわずかに開いて、口元だけの笑みを一層深くする。
「都でいうところの『変わったこと』『物騒なこと』なんてものは、日常茶飯事でございますから。私のような爺イは、到底全部はおぼえておりませんねえ」
「……」
狸め。そう心の中で舌打ちし、アスナイはもう一枚、金貨を主人に投げた。
